平成16年改正道路交通法の概要


 

 概要

最近の交通情勢は、交通事故による死者数は減少しているものの、昨年は高齢者の死者の占める割合が40%をこえ、また、負傷者数及事故発生件数は過去最悪を更新するなど非常に厳しい状況にある。
 こうした中、交通事故防止対策の一層の推進を図るため、違法駐車対策の推進、運転者対策の推進、暴走族対策の推進等、6つの大きな柱を内容とする道路交通法の一部を改正する法律(平成16年法律第90号。以下「改正法」という。)が、第159回国会における審議を経て、平成16年6月3日に可決・成立し、同月9日に公布された。

主な改正事項
 ◎ 違法駐車対策の推進
 ◎ 運転者対策の推進
 ◎ 暴走族対策の推進
 ◎ 自勳ニ輪車の二人乗り規制の見直し
 ◎ 携帯量話等の使用等に対する罰則規定の見直し
 ◎ 飲酒検知拒否に対する罰則の引上げ


 改正の背景

 平成15年中の交通事故死者数は7,702人で、昭和32年以来、46年ぶりに7千人台まで減少するに至ったものの、交通事故による負傷者数は過去最悪の118万1,431人を記録するなど、我が国の交通情勢は依然として非常に厳しい状況にある。

政府においては、交通事故による死者数を「10年間で5千人以下にする」ことを目標としているが、これを実現し、我が国を「道路交通に関して世界で一番安全な国」とするためには、交通事故防止対策の一層の推進を図ることが必要である。

一方、最近の社会情勢に目を向けると、刑法犯認知件数が約280万件となるなど、治安情勢がまさに危険水域に至っているのみならず、経済の活性化とともに、生活者・消費者本位の透明性が高く公正な経済社会システムを実現するという観点から、行政の各般の分野について、規制の在り方の見直しが求められている。
 今回の改正法は、このような道路交通をめぐる諸情勢に対応して、交通事故防止対策の-層の推進を図るとともに、必要な規制改革等を着実に推進し、また、警察力の合理的な再配分にも資するために立案された。


 違法駐車対策の推進

(1)改正の趣旨
 違法駐車は、交通渋滞や交通事故の原因となるほか、緊急時における救急車、消防車等の緊急車両の通行やゴミ収集作業、地域によっては除雪作業の妨害となるなど、国民生活に著しい弊害をもたらしている。
 警察や関係機関による継続的な駐車対策にもかかわらず、違法駐車が依然として深刻な都市問題となっている要因としては、違法駐車の大半が運転者が車両を離れているものであることから、違法駐車行為をした運転者を特定することができず、運転者に対する刑事責任の追及が機能不全に陥っていることが挙げられる。

そこで、今回の改正では、新たに、運転者が反則金を納付しないなど当該放置駐車に係る運転者の責任が追及できない場合には、都道府県公安委員会が放置車両の使用者に対し、違反金(放置違反金)の納付を命ずることができることとする制度(放置違反金制度)を導入することとされた。
 また、本人通情勢、犯罪情勢がともに厳しい現状においては、違法駐車取締りに投入できる警察の執行力には限界があることから、違法駐車取締りに係る執行力を確保して良好な駐車秩序の確立を図るとともに、警察事務の合理化を図るため、警察署長が、放置車両の確認及び標章の取付けに関する事務(「確認事務」)を、一定の要件を満たし都道府県公安委員会の登録を受けた法人に委託することができることとするなど、駐車違反対応業務の民間委託の範囲を拡大することとされた。

(2)駐車に係る車両の使用者の義務の強化(第74条の2)

これまでも車両の使用者は、車両の運転者に車両の駐車に関し法令の規定を順守させるとともに車両を適正に駐車する場所を確保することその他駐車に関しての車両の適正な使用のために必要な措置を講ずるよう努めなければならないという努力義務が課されている(旧第74条第3項)。
 今回の改正により駐車に係る車両の使用者の義務が強化され、車両の使用者は、車両の運転者に車両の駐車に関し法令の規定を遵守させるよう努めることのほか、当該車両を適正に駐車する場所を確保することその他車両の適正な使用のために必要な措置を講じなければならないこととされた。
 車両の使用者が講じなければならないこととなる義務には、あらかじめ運行の目的地及び経路を確認して駐車場所を確保するなど、確実に駐車違反を防止することができる措置を講ずることはもとより、それにもかかわらず駐車違反をするおそれがある運転者には車両の使用を認めないという措置を講ずることも含まれる。

(3)車両の使用者に放置違反金の納付を命ずる制度に関する規定の整備
 ア 放置車両の確認および標識の取付け(第51条の4第1項から第3項)
 警察署長は、警察官や交通巡視員(確認事務が委託された場合は放置車両確認機関)に、違法駐車と認められる場合(車両が第44条、第45条第-項若しくは第2項、第47条第2項若しくは第3項、第48条若しくは第49条の2第2項、第3項若しくは第5項後段の規定に違反して駐車していると認められるとき、又はパーキングチケットが掲示されておらず、かつ、第49条の2第4項の規定に違反していると認められるときをいう。)における車両(軽車両についでは重被牽引車に限る。)で運転者が車両を離れて直ちに運転することができない状態にあるもの(「放置車両」という。)の確認をさせ、このような確認をしたことなどを告知する確認標章を取り付けさせることができることとされた。

確認標章は、車両の使用者、運転者その他車両の管理について責任がある者以外の者は、取り除いたりしてはいけない。
 確認襟章の取り付けは後に述べる公安委員会の放置違反金納付命令の前提となる手続きであるため、警察署長は、確認標章を取り付けさせたときは、車両の駐車状況を公安委員会に報告しなければならないこととされた。
 違法駐車のうち運転者が車両を離れて直ちに運転することができない状態にあるもののみ確認標章を取り付け、使用者の責任を追及する(放置違反金の納付を命ずる)ことができることとしたのは、放置駐車違反は違反の現場に運転者がいないことから、違反した運転者を特定することが困難であるという根元的な問題があり、運転者の責任追及を十分に行い得ない状況があるのに対し、運転者が車両に乗車している非放置駐車についでは、このような問題がないからである。

 イ 放置違反金納付命令(第51条の4第4項および第5項)
 警察署長から車両に確認標章を取り付けさせた旨の報告を受けた公安委員会は、報告された車両を放置車両と認めるときは、車両の使用者に対し、放置違反金の納付を命ずることができることとされた。ただし、納付命令は、確認標章が取り付けられた日の翌日から起算して30日以内に、違法駐車行為をした者が反則金を納付した場合又はその違法駐車行為についで公訴を提起された場合(少年については家庭裁判所の審判に付された場合)にはすることはできない。
 放置駐車違反は、これを抑止すべき社会的要請が強いにもかかわらず、警察官や交通巡視員が違反行為を現認していないため、違反者の特定が困難であるという根源的な問題があり、運転者、特に悪質な運転者の責任追及が十分に行い得ない状況にある。そこで、車両の使用によって大きな社会的便益を得、車両の運行を管理している使用者の責任を強化して、放置違反金制度を導入し、違法駐車の抑止を図ることとされた。  しかしながら、放置駐車違反の責任は、第一義的には、原因行為者である運転者が負うベきものであり、運転者の刑事責任は残すとともに、使用者責任の追及は、運転者の責任を追及することができない場合に限って行うこととされた。

 ウ 弁明機会の付与(第51条の4第6項および第7項)
 公安委員会は、納付命令をしようとするときは、車両の使用者に対し、あらかじめ、当該納付命令の原因となる事実及び弁明書の提出先・提出期限を書面で通知し、相当の期間を指定して、弁明書及び有利な証拠を提出する機会を与えなければならないこととされた。行政手続法上、一定の金額の納付を命ずる行政処分についでは、事前手続は不要とされているが、納付命令については、使用者の権利保障と公安委員会の判断の適正確保を図るため、特に弁明の機会を付与することとされたものである。
 公安委員会は、納付命令を受けるべき者の所在が判明しないときは、その者の氏名等を公安委員会の掲示板に掲示することにより、弁明の機会の付与のための通知を行うことができることとされた。この場合には、掲示を始めた日から二週間を経過したときに、その通知がその者に到達したとみなされる。

 エ 放置違反金の額(第51条の4第8項および別表第一)
 放置違反金の額は、別表第一に定める金額の範囲内において、政令で定めることとされた。政令で定める放置違反金の額は、その放置違反金の納付を命じられる原因となった違法駐車行為をした者が納付すべき反則金の額と同額とされる見込みである。
 これは、放置違反金は、運転者に対する責任の追及を行うことができなぃ場合に、使用者に対して納付を命ずるものであり、また、放置違反金の金額が反則金の額と異なるならば、運転者の不出頭や運転者の詐称を増大させる可能性があることから、放置違反金の額は反則金と同水準に設定することが合理的であると考えられるからである。 

 オ 放置違反の仮納付(第51条の4第9項から第12項まで)
 弁明の機会の付与の通知を受けた者は、弁明書の提出期限までに、放置違反金に相当する金額を仮に納付することができることとされた。これは、早期に事案を終結させたいとする使用者の便宜を図り、一方で行政の事務負担を軽減するために設けられたものである。仮納付をした者についでは、納付命令は公示して行うことができることとされた。また、仮納付をした者について納付命令があったときは、放置違反金に相当する金額の仮納付は納付命令による放置違反金の納付とみなされる。他方、違法駐車行為をした者が反則金を納付した、又は公訴を提起された(少年の場合は家庭裁判所の審判に付された)等の理由により、仮納付をした者について納付命令をしないこととしたときは、公安委員会は、速やかに、その者に対し、理由を明示して納付命令をしない旨を書面で通知し、仮納付された金額を返還しなければならないこととされた。

 カ 放置違反金の督促及び滞納処分(第51条の4第13項及び第14項)
 公安委員会は、納付命令を受けた者が納付の期限を経過しても放置違反金を納付しないときは、督促状によって納付すベき期限を指定して督促しなければならないこととした。この場合には、公安委員会は、放置違反金についで年一四・五%の割合により計算した額の範囲内の延滞金及び督促に要した手数料を徴収することができる。督促を受けた者がその指定期限までに放置違反金及び延滞金・手数料を納付しないときは、公安委員会は、地方税の滞納処分の例により、強制的に徴収することができることとされた。滞納処分は、原則として、財産の差押え(指定期限までに滞納された放置違反金、延滞金等が完納されていない場合に、滞納者の財産を差し押さえる。)、換価処分(差し押さえた財産を公売に付す。)、充当処分(差押財産の売却代金、差し押さえた金銭等を滞納処分費及び滞納額に充てる。)という手順により行われる。

 キ 放置違反金の収入(第51条の4第15項)
 納付された放置違反金や延滞金・手数料は、納付命令を行った公安委員会の属する都道府県の収入となる。また、この収入は使途が特定されていない。なお、反則金は、従来どおり、国の収入となり、道路交通安全施設の設置及び管理に要する費用に充てるため、交通安全対策特別交付金として都道府県及び市町村に交付される。

 ク 納付命令の取消し及び放置違反金等の還付(第51条の4第16項及び第17項) 
 納付命令をした後に、違法駐車行為をした者が反則金を納付した場合又はその違法駐車行為についで公訴を提起された場合(少年については、家庭裁判所の審判に付された場合)には、公安委員会は納付命令を取り消さなければならないこととされた。これは、放置駐車違反の責任は、第一義的には原因行為者である運転者が負うべきものであり、使用者に対する責任追及は、運転者に対する責任追及ができない場合にのみ行うこととするという新制度の原則によるものである。公安委員会は、納付命令を取り消したときは、速やかに理由を明示してその旨を納付命令を受けた者に通知しなければならない。また、この場合に、既に放置違反金や延滞金.手数料が納付されたり、徴収されたりしている場合は、その額を還付しなければならない。

 ケ 車両の使用者等からの報告徴収及び官公庁等に対する照会(第51条の5)
 公安委員会は、放置違反金に関する規定の施行のため必要があると認めるときは、標章を取り付けられた車両の使用者、所有者その他の関係者に対し、車両の使用に関し必要な報告又は資料の提出を求めることができることとされた。これは、放置違反金の納付を命ずるためには、その前提として、車両の使用者が誰であるか、当該使用者に免責事由が認められるかなどについて事実の調査を行う必要があるためである。 また、公安委員会は、放置違反金に関する規定の施行のため必要があると認めるときは、官庁、公共団体その他の者に照会し、又は協力を求めることができることとされた。これは、放置違反金制度を運用するためには、車両の使用者に関する情報、違法駐車行為をした者がその違法駐車行為についで公訴を提起された(家庭裁判所の審判に付された)かどうかについての情報等を把握する必要があり、これらの情報を国土交通省等や市町村、検察庁、裁判所等に照会する必要があるためである。

(4)車検拒否制度に関する規定の整備(第51条の7第2項)
 車検を受けようとする者は、放置違反金の納付を命ぜられたにもかかわらずこれを滞納し、督促を受けたことがあるときは、車検時に放置違反金の納付等を証する書面を提示しなければならず、この書面の提示がないときは、車検を受けることができない(車検証の返付をしない)こととされた。 放置違反金制度においては、使用者に対して科す放置違反金の納付が確実に行われなければ使用者に感銘力が及ばず、より良好な駐車秩序を確立するという制度の目的を達成することはできない。
 そこで、国土交通省と連携し、放置違反金の納付を命ぜられたにもかかわらず督促段階までこれを滞納している使用者について、放置違反金納付義務の履行がないとき(納付等を証する書面の提示がないとき)は、車検を受けることができない(車検証の返付をしない)こととすることによって、使用者に放置違反金の納付を促すこととした。

(5)車両の使用制限命令に関する規定の整備(第75条の2) 
 公安委員会が納付命令をした場合に、その使用者がその確認標章が取り付けられた目前6月以内にその車両が放置車両であったことを理由として納付命令を受けたことがあり(命令が取り消されている場合は除く。)、かつ、使用者がその車両を使用することについて著しく交通の危険を生じさせるおそれ、又は著しく交通の妨害となるおそれがあると認めるときは、その車両の使用の本拠の位置を管轄する公安委員会は、政令で定める基準(納付命令を受けた回数が基準とされる見込みである。)に従って、その使用者に対し、3月以内で期間を定めて、その車両を運転し、又は運転させてはならない旨を命ずることができることとされた。これは、違反金納付命令を受けてもなお選切な運行管理を行わずに、放置駐車違反が繰り返される車両の使用者に対しては、違反金の納付を命ずることのみでは違法駐車の抑止を図る上で不十分であると考えられたからである。

(6)放置車両の確認及び標章の取付けに関する事務等の委託に関する規定の整備
 ア 確認事務の委託及び法人の登録(第51条の8から第51条の11) 
 治安情勢が悪化している現状においては、違法駐車取締りに投入できる警察の執行力には限界があることから、違法駐車取締り関係事務に要する警察の執行力を十分に確保することができる仕組みを構築し、良好な駐車秩序の確立を図るとともに、警察事務の合理化を図るため、新制度においては、放置された違法駐車車両があるという事実の確認と事実を確認した旨を記載した標章の取付けを民間に委託することができることとされた。放置車両の確認は、使用者に対する放置違反金納付命令の端緒となるものであることから、確認事務が、公正かつ適確に行われることを担保する必要がある。そこで、法令の定めに従い、公正かつ適確に確認事務を遂行することが期待できない者は委託対象になり得ないことを法律上明らかにするため、委託対象としての要件・基準を定めて登録を行い、この登録を受けた法人に限って委託を受けることができることとした。

 イ 放置車両確認機関(第51条の12)
 確認事務を受託した法人を放置車両確認機関という。放置車両確認機関に課されている道路交通法上の義務は次のとおり。

   ○ 公正に、かつ登録基準に適合する方法により確認事務を行わなければならない。

   ○ 駐車監視員資格者証の交付を受けている者のうちから選任した駐車監視員以外の者に放置車両の確認等を行わせてはならない。

   ○ 駐車監視員に制服を着用させ、又はその他の方法によりその者が駐車監視員であることを表示させ、かつ、記章を着用させなければ、その者に放置車両の確認等を行わせてはならない。

 放置車両確認機関がこれらの義務に違反した場合は、登録が取り消されることがある。 また、放置車両確認機関の役職員には秘密保持義務が課されており、確認事務に従事する同機関の役職員は罰則の適用に関しては公務員とみなされることとされている。

ウ 駐車監視員資格者証(第51条の13)

公安委員会は、放置車両の確認等に関する技能及び知識に関する講習を修了し、かつ、欠格要件に該当しない者等に対し、駐車監視員資格者証を交付することとされた。 駐車監視員は、確認事務の中核となる現場における確認作業を実際に行う者であり、必要な資質、知識等を有する者に限定することによって確認事務が公正かつ適確に行われることを担保する必要がある。このため、必要な資質、知識等を有する者に駐車監視員資格考証を交付することとし、この資格者証を有する者に限って駐車監視員となることができることとされた。 駐車監視員資格者証については、更新制度は設けられていないが、全国で効力を有するとされている。


エ 放置違反金関係事務の委託(第51条の14)
 放置違反金制度の導入に伴い、各種の書類作成等の事務が大量に発生することが見込まれる。そこで、警察事務の効率化を図るため、放置違反金関係事務を会社その他の法人に委託することができることとし、受託した法人の役職には秘密保持義務を課すこととされた。
 放置違反金関係事務として委託が想定される事務は、
   〇 違反に関する各種データの入力整理 
   ○ 各種書類(弁明通知書、放置違反金納付命令書、督促状等)の作成・送付
などが考えられる。なお、放置違反金関係事務の委託には、確認事務の委託と異なり、登録制度は設けられていない。

(7)警察署長が移動保管した車両等の返還に関する規定の整備(第51条及び第72条の2)
 車両の所有者等が、レツカー移動した車両を引き取りに来ない事例が増加していることから、
@  現行法では、保管車両の所有者等が判明しない場合は公示し、公示の日から3月を経遇しても引き取りがされず、車両の価額に比べて、車両の保管に不相当な費用を要するときに、車両を売却して、その代金を保管することができるが、この売却して代金を保管することができるまでの期間を現行の3月から1月に短縮する
A  現行法では、所有者等に対して引き取るべき旨を告知することができたために公示をしなかつた場合は、売却して代金を保管すること及び都道府県ヘの所有権帰属を行うことができないが、所有者に対する告知の日から一定期間経過した場合にも、公示をした場合と同様、売却して代金を保管すること又は都道府県ヘの所有権帰属の措置をとることができる

こととされた。
 これにより長期保管車両についでの現場の負担が軽減されるものと見込まれる。


 運転者対策の推進

(1)改正の趣旨

 貨物自動車が第一当事者である死亡事故は、他の二輪以上の自動車と比較して、車両保有台数当たり及び走行距離当たりの死亡事故件数が高く、また、近年の様々な事故防止対策にもかかわらず、死亡事故の減少率も低い水準にとどまっている。 また、車両総重量別に車両保有台数当たりの死亡事故件数を見ると、特に車両総重量5トン以上8トン未満(普通自動車のうち大型のもの)及び車両総重量11トン以上(大型自動車のうち大型のもの)のものが顕著に高くなつており、これは、車両の大型化が進んでいるにもかかわらず、運転者の知識・技能がこれに迫い付いていないことが背景になっていると考えられる。 そこで、今回の改正では、貨物自動車に係る運転者の知識・技能の向上を図るため、自動車の種類として新たに中型自動車を設けるとともに、これに対応する運転免許として新たに中型免許、中型第二種免許及び中型仮免許を設けるなど、運転免許制度の改正を行うこととなった。

(2)中型免許等の新設(第84条から第87条まで)
 最近の本人通死亡事故の状況をみると、

 @ 貨物自動車の車両保有台数当たり及び走行距離当たりの死亡事故件数は他の四輪以上の自動車よりも高く、また、近年の諸対策によ    る死亡事故の抑止効果も低い

 A 車両総重量5卜ン以上8トン未満(大きな普通自動車)及び車両総重量11トン以上(大きな大型自動車)の自動車の保有台数当たりの死   亡事故件数が顕著に高い

 B Aの自動車による死亡事故は左折事故や追突事故の占める割合が高く、これは貨物自動車が90%以上を占め、大型化しているAの    自動車の運転に必要な技能及び知識の不足が原因と考えられる
といった特徴がみられる。

 そこで、今回の改正では、貨物自動車による事故防止を図るため、自動車の種類として中型自動車を新たに設け、これに対応して、中型免許、中型第二種免許及び中型仮免許を新設し、それぞれに見合った欠格事由、受験資格等の制度を整備することとなった。

(3)大型免許、中型免許及び中型第ニ種免許の受験資格
 ア 大型免許の受験資格(第88条第1項第1号及び第96条第2項) 
 従来より、大型自動車(車両総重量8トン以上)のうち、車両総重量11トン以上のものについでは、大型免許を受けた者であっても、21歳以上で、大型免許等を受けていた期間が3年以上でなければ運転することができないこととされている。 近年、車両の大型化が進んでいることに伴い、これらの自動車の保有台数当たり死亡事故件数が高くなっている。 
 そこで、現行制度を踏まえつつ、貨物自動車による交通事故防止の必要性と受験資格を引き上げることなどによる社会的影響を勘案し、改正後の大型免許の受験資格を、21歳以上で、普通免許等を受けていた期間が3年以上とすることとされた。

 イ 中型免許の受験資格(第88条第1項第1号及び第96条第3項)
 今回の改正では、これまで普通自動車とされていた車両総重量5トン以上8トン未満の自動車と大型自動車とされていた車両総重量8トン以上11トン未満の自動車を運転することのできる免許として、中型免許を設けることとされている。
 このうち、車両総重量5トン以上8トン未満の自動車については自動車1万台当たり死亡事故件数が顕著に高くなっていますが、これは、これらの自動車が大型免許を創設当時の大型自動車並に大型化していることによるものであると考えられることから、中型免許の受験資格を現在の大型免許と同様に、20歳以上で、普通免許を受けていた期間が2年以上とすることとされた。

 ウ 中型二種免許の受験資格(第96条第5項第1号)
 中型第二種免許の受験資格については、現在の大型第二種免許及び普通第二種免許の受験資格が、21歳以上で、普通免許等を受けていた期間が3年以上とされていることにかんがみ、これらの免許と同じものとすることとされた。

(4)大型免許、中型免許及び中型第ニ種免許に係る路上試験の導入(第96条の2及び第97条第1項) 
 これまで、大型免許の技能試験は、試験場のコース内において行われている。しかしながら、免許取得者の水準の向上を図るためには、実際の道路において技能試験を行い、免許を受けようとする者が周囲の安全確認を確実に行い、交通の状況を的確に予測して安全に運転する能力を有しているかどうかを適正に判定する必要があると考えられた。
 そこで、今回の改正では、大型免許、中型免許及び中型第二種免許に路上試験を導入することとされた。
 また、路上試験の安全を担保するため、路上試験は、仮免許を受け、一定の路上練習を行つた後でなければ受験することができないこととされた。なお、現在の普通免許、大型第二種免許又は普通第二種免許の技能試験も道路において行うこととされている。

(5)大型免許、中型免許及び中型第ニ種免静を受けようとする者に対する取得時講習の義務付け(第90条の2第1項及び第108条の2第1項) 
 これまで、大型免許を受けようとする者に対しては、取得時講習が義務付けられていなかった。しかしながら、貨物自動車の事故実態等を踏まえれば、これらの自動車を運転しようとする者についでも、
   ○ 道路において生じ得る危険を予測して安全に運転する能力
   ○ 路面凍結等悪条件下において安全に運転する能力
   ○ 交通事故の際に応急救護処置を行う能力
を有していることが必要であると考えられた。
 そこで、試験で確認することが適切でないこれらの能力を身に付けさせるため、大型免許又は中型免許を受けようとする者に、大型自動車又は中型自動車の運転に関する講習及び応急救護処置講習の受講を義務付けることとなった。
 また、中型第二種免許についでは、現在の大型第二種免許及び普通第二種免許を受けようとする者に対して、それぞれの免許に係る自動車の運転に関する講習及び応急救護処置講習の受講が義務付けられていることから、同様の講習を義務付けることとされた。

(6)改正法の施行の際、現に運転免許を受けている者に係る経過措置(改正法附則第6条から第14条まで) 
 現在の大型免許又は普通免許を受けている者については、既得権を保護し、これまで運転することができた自動車と同じ範囲の自動車を運転することができるようにすることとした。
 具体的には、改正前の道路交通法の規定による運転免許は、次の表のとおり、改正後の道路交通法の規定による運転免許とみなすこととなった。 


 暴走族対策の推進

(1)共同危険行為等の禁止規定の見直し(第68条) 
 暴走族による信号無視、蛇行走行、広がり走行等の集団暴走行為についでは、従来、共同危険行為等の禁止の規定により取締りが行われている。この規定は集団暴走行為によって進路を妨害されたり、急ブレーキを余儀なくされるなど実際に迷惑を被ったり、危険に遭った者(「被迷惑者」という。)がいなければ罰則の対象とならないと解されているため、検挙に当たりては、被迷惑者の協力を得て、実際に被迷惑者がいたことを明らかにする必要があった。しかしながら、集団暴走行為が行われたにもかかわらず、取締りの現場に被迷惑者がいなかつたり、被迷惑者の協力が得られなかつた場合には、共同危険行為等の禁止違反での取締りをすることができず、このことが暴走族取締りの支障となっていた。
 そこで、今回の改正では、暴走族による集団暴走行為については、被迷惑者がいない場合であっても、著しく道路における交通の危険を生じさせ、又は著しく他人に迷惑を及ぼすこととなる行為は罰則(2年以下の懲役又は50万円以下の罰金)の対象とすることとされた。

(2)騒音運転等に対する罰則規定の見直し(第71条第5号の3及び第120条第1項第9号) 
 正当な理由がないのに著しい騒音を生じさせるような方法で自動車又は原動機付自転車を急発進、急加速させ又は原動機の空ふかしを行うこと(「騒音運転等」という。)については、暴走族の暴走行為による騒音問題等が大きな社会問題となっていたことを背景に、昭和60年暴走に対する十分な抑止力となっていなかった。
 そこで、今回の改正では、騒音運転等の規定に違反した者に対して5万円以下の罰金を科すこととされた。また、この違反行為についでは、交通反則通告制度が適用される。 しかしながら、騒音運転等の規定に違反する行為に対しては、運転免許の行政処分に係る基礎点数二点が付されるものの、罰則は設けられていないことから、暴走族による爆音暴走に対する十分な抑止力となっていなかった。そこで、今回の改正では騒音運転等の規定に違反した者に対して5万円以下の罰金を科すこととされた。また、この違反行為については、交通反則通告制度が適用されることになる。

(3)消音器不備に対する罰則の引上げ(第71条の2及び第120条第1項第9号) 
 消音器を備えていないか、消音器に改造を加えた自動車又は原動機付自転車を運転する行為(「消音器不備」という。)については、暴走族による爆音暴走を防止するため、平成四年の道路交通法の改正により、禁止規定が設けられた。しかしながら、消音器不備の規定に違反した者に対する罰則が2万円以下の罰金又は科料という低い水準であったことから、暴走族による爆音暴走に対する十分な抑止力とはなっていなかった。
 そこで、今回の改正では、消音器不備の規定に違反した者に対する罰則を5万円以下の罰金に引き上げることとなった。 


  自動二輪車の二人乗り規制の見直し

(1)高速自動車国道等における大型自動二輪車等の二人乗りの条件(第71条の4第3項及び第4項)

 これまでは、高速道路における自動二輪車の二人乗りは禁止されていた。しかし、近年における高速道路の整備状況をみると、自動車交通の利便性を享受する上で高速道路は欠くことができない存在となっている。 こうした中、自動二輪車の利用者等から、二人乗りで長距離ツーリングを行ぅ際に高速道路の利用が認められず一般道路を利用せざるを得ないのは不便であるとして、自動二輪車の利便増進の観点から高速道路の二人乗り禁止規制を見直すべきであるとの要望が寄せられていた。また、規制改革推進三か年計画において「高速自動車国道等における自動二輪車の走行動二輪車の二人乗りを認めることの可否について調査・検討し、結論を得る」こととされた。 
  このような情勢を踏まえ、警察において自動二輪車の事故分析、走行実験等を行った。その結果、交通安全教育を実施した上で、20歳以上の者で、大型自動二輪車免許又は普通自動二輪車免許を受けていた期間が通算して3年以上のものであれば、道路交通の安全を確保しつつ高速道路を利用する自動二輪車の運転者の利便性の要請にこたえられると考えられた。
 そこで、今回の改正では、これらの者について高速道路における二人乗りを認めることとなった。

(2)高速自動車国道等における大型自動二輪車等の二人乗りの条件違反に対する罰則の引き上げ(第71条の4第3項並びに第119条の4第1項第5号)

 高速道路では、自動二輪車の走行台キロ当たりの死者数及び死亡事故率が一般道路に比べて高くなっており、ひとたび高速道路において事故が発生すると重大な結果につながるおそれが極めて高い。 また、これまでは高速道路における自動二輪車の二人乗りは全面的に禁止されていたため、高速道路において自動二輪車を二人乗り運転していれば、その者が道路交通法に違反していることば外見上明らかであった。そのため、このことが運転者が違反行為をしないようにする上での心理的な抑止効果として機能していたと考えられるが、今回の改正により20歳以上の者で、大型自動二輪車免許又は普通自動二輪車免許を受けていた期間が三年以上のものであれば高速道路において二人乗り運転をすることができることとなり、違反が外見上は明らかではなくなることから、違反に対する心理的な抑止効果が減少するものと考えられる。 そこで、今回の改正では、罰則の威嚇カ、感銘力を高めるため、高速道路における二人乗り禁止規制に違反した者に対する罰金の額を5万円から10万円に引き上げることとなった。

(3)免許を受けていた期間が1年末満の者による大型自動二輪車等の二人乗り禁止規定違反に対する罰則の引上げ(第71条の4第5項及び第6項並びに第119条の4第1項第5号)

-年末満の者の占める割合が高くなっている。また、平成15年中に自動二輪車の二人乗り禁止規定違反で検挙した件数は1万2,628件で、違反率が極めて高くなっている。 そこで、今回の改正では、罰則の威嚇カ、感銘力を高めるため、免許取得後一年間の二人乗り禁止規制に違反した者に対する罰金の額を5万円から10万円に引き上げることとされた。

(4)危険防止の措置に関する規定の整備(第67条第1項及び第3項) 
 高速道路における二人乗り禁止規定又は免許取得後1年間の二人乗り禁止規定に違反して大型自動二輪車等を二人乗り運転している者は、自動二輪車を二人乗りで運転するために必要な技能及び知識を有しておらず、これらの者に運転を継続させることは極めて危険であると考えられる。

 これまで、道路交通法第67条第1項及び第3項の規定により、警察官は、運転者が無免許運転、酒気帯び運転、過労運転等のほか、大型自動車等の無資格運転を行っていると認めるときには、当該車両等を停止させ、免許証の提示を求めるとともに、危険防止のための措置をとることができることとされている。
 高速自動車国道等における二人乗り禁止規定又は免許取得後一年間の二人乗り禁止規定に違反する行為は、大型自動車等の無資格運転と同様に危険性の高い行為であることから、これらの規定を第67条第1項及び第3項に追加し、警察官が危険防止のための措置をとることができるようにされた。



携帯電話等の使用に対する罰則規定の見直し(第71条第5号の5及び第120条第1項第11号)

 自動車又は原動機付自転車の運転中における携帯電話等の使用等についでは、平成10年の道路交通法の改正により、無線通話装置を手で保持して通話のために使用すること及び画像表示用装置に表示された画像を注視することについて禁止規定が設けられた。
 しかしながら、同規定に違反した者に対する罰則は、違反行為によって道路における交通の危険を生じさせた場合に限られていた(3月以下の懲役又は5万円以下の罰金)。 
 この改正の施行前後における携帯電話等の使用に係る交通事故件数を見ると、施行直後の平成12年は大幅に減少したものの、その後増加に転じ、平成15年は、平成12年の約2倍となっており、運転中に携帯電話等を手に持って通話したり、メールの送受信をしたりすることによる交通事故の防止を図る必要が高まってきた。 

 また、現行規定で禁止されている行為のうち、無線通話装置を手に持って通話したり、画像表示用装置を手に持ってその装置に表示された画像(メール等が表示された携帯電話の画面等)を注視する行為は、会話に気がとられたり、画像を注視することにより、運転に必要な周囲の状況に対する注意を払うことが困難となることに加え、片手運転となることにより運転操作が不安定となるため、特に危険であると考えられた。  そこで、今回の改正では、これらの行為自体を捉えて、5万円以下の罰金を科すこととされた。また、この違反行為については、交通反則通告制度が適用されることとなる。なお、これまでも禁止の対象ではなかったタクシー無線やハンズフリー装置を使用した携帯電話の使用等については、今回の改正後も罰則の対象とはならない。


 飲酒検知拒否に対する罰則の引き上げ(第67条第2項及び第119条の2) 

 飲酒運転については、飲酒運転による悲惨な事故が後を絶たないことから、平成14年6月に罰則の引上げや行政処分の強化等が行われ、効果をあげているが、他方で、飲酒運転に対する罰則と比べ、相対的に飲酒検知拒否に対する罰則が低くなったことを背景として、飲酒運転の呼気検査を拒否する事例が増えている状況にある。
 道路交通の場から飲酒運転を行う危険な運転者を排除し、飲酒運転による交通事故を防止するためには、警察官が呼気検査を確実に実施し、飲酒運転による交通の危険を防止するための措置を適切に講ずることが必要不可欠である。
 そこで、今回の改正では、警察官による飲酒運転の呼気検査を拒否した者に対する罰則を、現行の5万円以下の罰金から30万円以下の罰金に引き上げることとなった。


 施行期日(改正法附則第1条)

 改正法の施行期日は、各項目により、周知、準備等に必要な時間が異なることから、それぞれ次のとおり。
 ○ 違法駐車対策〜公布の日から2年以内で政令で定める日(警察署長が移動保管した車両等の返還に関する規定の整備については、公布の  日から6月以内で政令で定める日)

 〇 運転者対策〜公布の日から3年以内で政令で定める日 
 ○ 暴走族対策〜公布の日から6月以内で政令で定める日
 ○ 自動二輪車の二人乗り規制の見直し〜公布の日から1年以内で政令で定める日
 ○ 携帯電話等の使用等に対する罰則規定の見直し及び飲酒検知拒否に対する罰則の引上げ〜公布の日から6月以内で政令で定める日