R氏
ええそうです。道交法第71条は「運転者の遵守すべき事項」について規定していますが、今回の改正で走行中の携帯電話等の使用の禁止等が加えられました。罰則規定も設けられ、この規定に違反して交通の危険を生じさせた場合,3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金刑に処せられることになります。また、交通の危険を生じさせる行為に対する反則金は大型車が12,000円、普通車が9,000円とされ、さらに運転免許の停止等の行政処分の基礎点数は2点とされました。
<モービル運用との関係>
CQ編集部
条文を読んでもわかりにくい読者が多いと思うのですが,アマチュア無線ということを念頭に置いて少しわかりやすく説明願えないでしょうか。
R氏
実際のアマチュア無線のモービル運用の場合,この道交法第71条第5号の5で禁止されている「自動車電話装置その他の無線通話装置(その全部又は一部を手で保持しなければ送信及び受信のいずれをも行うことができないものに限る。)を通話のために使用…」というのには,おおかたの無線機が該当しないのではないかと思います。と申しますのも、条文中のかっこ書きにあるように、無線通話装置としては携帯電話のように装置を手に持たないと送受信のいずれもできないものが対象になるので、例えば、一般的なモービルのリグのように、相手方の音声(受信音)が無線機本体のスピーカーや外部スピーカーから聞こえる場合など、無線装置を手に持つことなく受信することができるものについては今回の禁止の対象にはなっていません。
ハンディー・トランシーバーについても同じですが、音声出力が小さくてよく聞き取れないようなもので手に持って耳に近づけて使うようなものは、携帯電話と同様な使い方になるので規制の対象になります。また、いわゆるスピーカーマイクを使用している場合については、スピーカーマイクを持たずに受信音は聞くことができるので対象外になると思われます。
ここで注意していただきたいのは、道交法第70条に「安全運転の義務」が規定されていることです。この第70条の規定は「他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。」と定めており、例えば、走行中にトランシーバーを使って交信中に、その交信に夢中になって前方注視を怠って他人に危害を生じさせたり、スピーカーマイクやハンドマイクを使用しながら片手運転中に交差点やカーブで適切なハンドル操作ができなかったりして、歩行者や他の車に危害を及ぼすようなことがあれば、この70条の規定に違反することになります。罰則はどちらも同じです。私も経験ありますが、マイクを握りながら片手運転をするとハンドル操作やギアーチェンジの際にマイクコードなどがハンドル等に絡んだりして危険ですね。
CQ編集部
ということはアマチュア無線で一般的に使われている無線機を使う場合には,今回改正された71条第5号の5は適用されず、運転中のQSOには十分注意するという,従来からの注意と変わらないと言うことですね。
R氏
そうですね。交通事故が年々増加しておりますので、安全運転とモービル運用とを両立させるためにどう使ったらいいかを考えていただければ良いのではないでしょうか。確実・的確な運転操作を行うためには、モービル用のハンズフリー装置(マイク等)を使うなどして安全運転に努めていただきたいですね。私自身もモービル用マイクを使用するようにしています。
CQ編集部
携帯電話に関しても,ハンズフリー装置などを用いて手に持たずに通話できれば,71条第5条の5には該当しないということになるわけですね。
R氏
そういうことですね。ただ、安全を考えると車に乗る際はできるだけドライブモードにしておいて欲しいですね。それからハンズフリー装置を使用する場合でも携帯電話のベルが鳴ったため携帯電話を探して通話ボタンを押すというようなことがないようにあらかじめ自動着信機能を使うことが必要ですね。
<運転中のディスプレイ確認は慎重に>
CQ編集部
ところでこの75条第5号の5を読んでみて,マイクを持ってしゃべることよりも,ディスプレイなどの注視の禁止のほうが,アマチュア無線のモービル運用にとって影響が多いような気がするんですが。
R氏
そうですね。最近のカーナビの著しい普及とこれに伴って交通事故も増加していることから、この規定が設けられたわけです。
法律では画像表示装置と表現されていますが,これにはカーナビのディスプレイやカーテレビだけではなく、車載無線機などの周波数表示用のディスプレイや携帯電話のディスプレイなどもこの対象となります。
CQ編集部
注視というはなはだわかりにくい言葉で表現されていますが。
R氏
そうかもしれませんね。結果として具体的な危険が発生したかどうかであって、交通の環境によっても変わってくると思います。1秒だから安全だとか、2秒だから危険だとか一概には決められないですね。
例えば、草原を走る広幅員の直線道路で歩行者も車両ない道路と,カーブした道路や歩行者の多い商店街の道路とでは危険発生の可能性が異なると思います。
CQ編集部
見ることを禁止したのではなくて,注視の禁止というのが戸惑いますね。
R氏
カーナビ装置は渋滞情報や経路情報などの交通情報を表示するいわば運転支援装置です。通常は表示された画像をちらっと一瞥(いちべつ)、若しくは一瞥を数回繰り返すことによって情報がわかるような装置になっていますので、通常の使い方をする限りは問題ありませんが、例えば、カーナビ装置でレストランやホテルなどを検索するための操作をするためディスプレイを見続ける行為やディスプレーに表示された地名等の文字を読むために見続ける行為は危険ですし禁止されます。
CQ編集部
目安をどう考えればいいんでしょうか。
R氏
通常に運転中に,液晶式等の速度計や走行距離計などの確認をする程度と考えていただくといいのではないかと思いますね。
ですから,周囲に危険を生じさせない程度に無線機のディスプレーに表示されたSや,周波数をちらっと確認することは良いが、パケットのメッセージを読んだり,ヘルプメニューを読んだりというのは禁止に当たります。またHFモービル運用の場合、バンド切り替え毎にアンテナチューナーを作動させSWRの調整をすることがあるかと思いますが、このような場合にディスプレイを見続けることは禁止されます。今のリグはチューニングボタンを押すだけで自動的にチューニングを取ってくれるので大丈夫でしょうが・・・注意して欲しいですね。
<運用面では>
CQ編集部
読者の最も関心の深いのは,ではどういう形で警察官が取り締まりを行うかと言うことだと思うんですが・・・・・。
R氏
今回の改正で、走行中に携帯電話等を使用することや,ディスプレイ(画像表示装置)を注視することが禁止され、その結果道路における交通の危険を生じさせた場合に罰則が適用させることになったので、自動車運転者が、走行中に携帯電話等を使用しているところを警察官が現認した場合には停車を命じ、指導・警告を行うことになるでしょう。
また、走行中に携帯電話等を使用して、その結果、交通事故が発生した場合は勿論ですが、信号待ちのために停止した車に追突しそうになって急ブレーキを掛けたり、対向車線にはみ出して対向車と衝突しそうになったり、交差点で歩行者に接触しそうになったなど具体的に危険な状態が生じた場合には罰則が適用され、いわゆる切符を切られることになると思います。
年間100万人もの方が交通事故で死傷していることを考えますと、交通事故は他人事ではありません。また、一旦交通事故を起こすと、免許の行政処分、罰金などの刑事罰、相手方に対する賠償など多くの問題が発生します。交通事故を起こさないためにも、安全運転に努めていただきたいですね。
CQ編集部
わかりました。今日はお忙しいなか有り難うございました。