自転車事故  〜 自転車の責任事例 〜

                                                      

1 自転車の刑事責任

 自転車が関与する事故の場合に自転車の責任として「重過失致死傷罪」が適用されることが多く、その法定刑は、「5年以下の懲役または禁固か100万円以下の罰金」である。
 そのほかに、道路交通法や過失傷害罪が適用されることがある。
  以下、最近の自転車事故で責任を問われた事例を挙げてみることにした。
 
 なお、罰金刑以上の刑事罰を受けると、医師、看護師、栄養士、調理師などの免許が与えられないことがある。
 そのため、これらの職に就くことを目指して大学などに進学しても、自転車事故などで刑事罰を受けると、就きたい仕事に就けなくなるおそれがあるなど副次的なデメリットがあることも忘れてはならない。

○ 自転車で横断中の歩行者と衝突、横断歩行者の女性が死亡した事故

 横断歩道のある交差点で、自転車に乗った女性会社員(47)と横断歩道を横断中の歩行者(75女性)が衝突し、歩行者が頭を強く打ち死亡した交通事故。

 自転車に乗っていた会社員の女性は、時速30〜40キロの速度で交差点に進入し、かつ横断歩道があるのに横断者の有無などの安全確認を怠った過失があるとして「重過失致死罪」で書類送検された。

自転車と歩行者の衝突、その後逃走したひき逃げ事故

 下り坂を自転車に乗って約25km/hの速度で走行していた会社員の男(37)が、前から歩いてきた62歳の女性に衝突、転倒させ、頭に大けがをした女性を救護せずにその場から逃げたひき逃げ交通事故。

自転車の男が前をよく見ていなかったもので前方不注視等が原因であるとして「重過失傷害罪、道路交通法違反(ひき逃げ)」の疑いで書類送検された。

○ 自転車が酒酔い運転で歩行者をはねて現行犯逮捕

 自転車通行可の歩道を飲酒して自転車を運転していた男(35)が、歩道を歩いていた小学生二人に衝突して負傷させた交通事故。

自転車は酒酔い状態であったことから「重過失傷害と道交法違反(酒酔い)」の疑いで現行犯逮捕され送検された。

○ 前方不注意の自転車が歩行者をはねて現行犯逮捕

幅員7mの河川敷道路を自転車に乗っていた男(44)が、犬の散歩をしていた男性(67)に衝突、散歩中の男性は頭の骨を折る重傷を負った交通事故。

 自転車を運転していた男が前をよく見ていなかった前方不注視による事故であることから「重過失傷害」の容疑で現行犯逮捕され送検された。

○ 前かががみで運転中の自転車が歩行者と衝突し現行犯逮捕

スポーツ対応の自転車に乗用中に男(44)は、前屈みになって歩道を運転していたため、直前しか見えずに、対面歩行中の女性に気付くのが遅れて衝突、女性が転倒して頭を打ち死亡した交通事故。

 スポーツタイプの自転車を運転していた男は、重過失傷害容疑で現行犯逮捕され、女性が死亡したため「重過失致死罪」で送致された。

自転車(大学生)の死亡ひき逃げ事故で逮捕

 男性(77)が自宅マンション前の歩道の一部に立てた脚立に乗って作業中、歩道を走行してきた大学生が乗車する自転車が脚立に衝突し、脚立が倒されて乗って作業中の男性が転落死した交通事故。

事故後、自転車はそのまま逃走したためひき逃げ事件として捜査の上「重過失致死罪及び道交法違反(ひき逃げ)」の疑いで逮捕され送検された。

○ 死亡事故を誘発した自転車に「重過失致死罪」を適用し有罪判決

 国道交差点で、赤信号で横断してきた男性(96)が乗る自転車を避けようとしたトラックが道路脇の建物に衝突し、運転者が死亡した交通事故。

 この交通事故で、赤信号を無視した自転車を運転していた男は「重過失致死罪」で取り調べを受け書類送致された。
 裁判で裁判官は、「信号に従って通行するのは自転車運転者の義務」とした上で、横断歩道を自転車で横断中の高齢者が赤信用を見落として自転車で横断し事故を引き起こしたのは重大な過失」と自転車の過失を認定し、禁固14ヶ月執行猶予3年の実刑判決を言い渡した。

2 民事上の責任

 加害者である自転車の運転者は、自転車事故を起こすと民法第709条の不法行為責任を負うことになる。

 加害者である運転者以外の者は、民法715条の使用者責任または第714条の監督者責任の適用がある場合を除き、たとえ加害自転車の保有者であっても責任を負うことはない。

 近年、自転車事故が多発しているが、収入のない中高校生が加害者のときは、損害賠償金の支払いが大きな問題となる。

自転車事故による損害賠償額の例は次のとおり。

○ 高校2年の男子が、登校時に猛スピードで下り坂を走行中、高齢者と接触し、高齢者が転倒して死亡。(損害賠償額 1,054万円)

○ 高校1年の女子が、傘をさしながら走行中にT字路で自転車と出会い頭に衝突し、相手方の左大腿部を骨折させた。(損害賠償額 505万円)

○ 高校1年の女子が、道路の右側を走行中に対向してきた主婦の自転車と接触し、主婦が転倒、後日死亡。(損害賠償額 2,650万円)

○ 駅付近の混雑した歩道で、自転車に乗った男子高校生が主婦とすれ違ったときに、自転車のハンドルが主婦のショルダーバッグの肩ひもにひっかかり、主婦が転倒してケガをした。(損害賠償額1,743万円)

○ 女子高校生が夜間、携帯電話を操作しながら無灯火で走行中に、看護師の女性と衝突。女性には重大な障害が残った。(損害賠償額5,000万円)

(なお、自転車乗用時の携帯電話の使用は、道交法違反で5万円以下の罰金となります。)

○ 自転車で通学中、歩行者に衝突し転倒させ、脊髄損傷による麻痺(後遺障害)が残った(損害賠償額6,008万円)

○ 白色実線内を歩行していた老女が、電柱を避けて車道に進出時、無灯火で自転車を運転して対向進行してきた中学生(当時14歳)と衝突し、老女が頭部外傷による後遺障害2級の障害を残した。(中学生の損害賠償金は約3,120万円)

※ 中高校生も責任を負うの?

中高校生が自転車事故の加害者になった場合、損害賠償責任について、判例で中学生にも責任能力を認めていることから、当然に高校生にも責任能力はあるとされている。
 したがって、中高校生でも損害賠償金は就職して給料が貰えるようになってから支払うことになる。

 また、民法第714条では「責任弁識能力のない者の責任は、監督義務者がその責任を負う」としているので、被害者は、加害者の親等に対して損害賠償請求をすることができる。

 したがって、親が子供に対して交通事故防止、自転車の安全利用について必要な監督指導を行っていないと認められる場合には親に賠償責任が発生することになる。

3 警察への届け出

交通事故と言えば、自動車事故ばかりイメージするが、自転車も軽車両に該当し、自動車との事故は車両相互事故として、また歩行者との事故は人対車両事故として扱われる。
 自転車事故でも交通事故であり、自転車事故の当事者になったときは警察への届出をきちんとしましょう。

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