高齢者の交通事故 〜 高齢者事故の原因を探る〜


1 最近の高齢者事故の傾向
(1)平成13年中の高齢者事故の発生状況

 65歳以上の高齢者が関与する交通事故は、
    死者数 3,216人(前年比50人、1.6%増)、負傷者数 114,391人(対前年比3,719人、3.4%増)
であり年々増加傾向にある。
    別表(pdf)1参照
 また、高齢者が第一当事者(第一当事者とは、交通事故の原因となる過失の大きい方、又は過失が同程度の場合には人身被害の軽い方をいう。)となる事故件数(全事故)は、82,844件(前年比5,407件増、7.0%増)となっている。

(2)高齢者人口と交通事故の関係
 65歳以上の高齢者の人口は、総務省統計資料によると、平成12年10月1日現在、約2,201万人であり、総人口約1億2,693人に占める高齢化率は17.3%となっている。
 また、今後の高齢化の推移の推計(国立社会保障・人口問題研究所「日本の全国将来推計人口の概要」)によると、65歳以上の高齢者人口の割合は、平成25年(2014年)には25%台になり本格的な高齢化社会が到来するものと見込まれている。
 高齢者の人口推移と交通事故による死傷者数等の推移は図1のとおりであり、高齢者の負傷者数は人口増加率に比較して大きく増加にある。
 高齢者の死者数は年齢層別にみると9年連続して最多年齢層になっており、全死者数に占める高齢者の死者数の割合は36.8%と7年連続して3割を超えている。



(3)運転免許保有者数との関係
 平成13年末現在の運転免許の
    保有者数は、7,555万人
      うち、65歳以上の運転免許を保有者数は765万人
に達し、平成3年末における高齢者の運転免許保有者数約316万人の約2.4倍で、運転免許保有者数に占める高齢者の割合は平成3年は5.0%であったが平成13年には約10.1%と2倍になっている。
 また、高齢運転者が第一当事者(原付以上)になる事故件数は増加傾向にあり、平成3年の約2.8倍になっている。また、全年齢に占める高齢者の構成率は、平成3年の4.4%が8.9%と増加している。
 なお、高齢者の中でも年齢が上がるにしたがって、増加率が高くなっている。
   
2 高齢者事故の特徴
 高齢者が関わる交通事故の特徴をみると次のとおりである。
(1)状態別・事故類型別
 状態別・年齢層別死者数中に占める高齢者の割合をみると、歩行中が61.8%と最も多く、次いで自転車乗用中59.0%、原付乗車中37.7%となっている。また全事故でも同様の傾向にあり、歩行中の死傷者数に占める高齢歩行者の割合は24.8%、自転車乗用中は15.6%、原付乗車中11.4%となっている。
 一方、年齢層別・当事者別事故件数(第一当事者)についてみると、死亡事故で高齢者の占める割合の多いのは、自転車59.6%(全事故では17.8%)、歩行者54.6%(全事故では16.8%)、原付33.8%(全事故では13.1%)であり、平成3年と比較すると高齢者の占める率はいずれも増加している。これらのことから高齢者の死傷者が多いが、一方で第一当事者になる率も比較的高く、高齢者が交通事故の発生に関与していることが推察される。
 以下、各状態別に事故の特徴を述べることとする。

(2)歩行者事故の特徴
 ア 歩行者の死傷者の状況

 歩行中の死者数は2,456人であり、うち高齢者は1,517人、61.8%を占めている。また、歩行中の負傷者は86,263人で、このうち高齢者は20,497人(61.8%)であり、歩行中の死者及び負傷者に占める高齢者の割合は高い。 

 イ 歩行者が第一当事者となる事故
 ア) 死亡事故の特徴

 歩行者が第一当事者となる死亡事故は315件、うち高齢者は172件で、54.6%を占めているが、中でも75歳以上の後期高齢者は99人(31.4%)と後期高齢者の割合が高くなっている。なお、平成3年と比較して第一当事者に占める高齢者の割合は9.3ポイント増加している。

 イ) 死亡事故における法令違反等
 歩行中の高齢者が第一当事者である場合を法令違反別でみると、信号無視が55.2%、次いで走行車両の直前直後の横断が18.0%となっている(表4参照)。構成率を平成3年と比較してみると信号無視が大きく増加(16.4ポイント)している。

 ウ) 全事故(死傷者数)における特徴
 歩行者が第一当事者となる死傷事故(全事故)をみると、高齢者歩行者の場合には信号無視が308件(33.7%)、走行中の車両の直前直後の横断が154件(16.8%)となっている。

 ウ 第二当事者の特徴
 歩行者が第二当事者になる死亡事故件数は2,081件で、うち高齢者は1,333件、64.1%であり、これを平成3年と比較すると10.7ポイント増加している。
高齢者の法令違反種別では、走行車両の直前直後の横断が295件(22.1%)で、次いで横断歩道以外の横断が262件(19.7%)となっている。また、これらの違反については、特に75歳以上の後期高齢者が特に多くなっている。

(2)自転車事故の特徴
 ア 自転車乗用中の死傷者の状況

 自転車乗用中の死者は992人で、うち高齢者が585人であり59.0%を占めている。
 また、負傷者数は176,819人で、うち高齢者は27,119人であり15.3%となっている。なお、自転車乗用中死傷者数の増加に伴って高齢者の死傷者数も年々増加傾向にあり、平成3年と比較して約1.6倍になっている。
 
 イ 自転車が第一当事者となる事故
 ア) 死亡事故の特徴

 自転車が第一当事者になる死亡事故は329件で、このうち高齢者は196件で59.6%を占めている。中でも75歳以上の高齢者が第一当事者となる件数が多い。

 イ) 死亡事故における法令違反等
 高齢自転車乗用者が第一当事者となった死亡事故を法令違反別にみると、一時停止違反が196件中53件で27.0%を占めており最も高い。次いで信号無視41件(20.9%)、ハンドルブレーキ操作不適24件(12.2%)、優先通行妨害25件(12.8%)、安全不確認20件(10.2%)となっている。また平成3年と比較してもほぼ同様の傾向にある。
 また、一時停止違反の構成率は、他の年齢層と比較して目立って高くなっている。   

 ウ) 全事故(死傷事故)における特徴
 自転車が第一当事者となる全事故件数は24,845件で、65歳以上の高齢者は4,415件(17.8%)である。
これを法令違反別にみると、安全不確認25.2%、一時不停止19.3%、ハンドル操作不適15.3%等となっている(表5参照)。

 ウ 第二当事者の特徴
自転車が第二当事者となる死亡事故件数は665件であり、うち390件(58.6%)が高齢者である。これを法令違反別にみると、安全不確認121件(31.0%)となっており、第二当事者であっても、法令違反を伴っており、過失責任があることが伺える。

(4)自動車事故の特徴
 ア 自動車事故における死傷者の状況

 自動車乗車中(二輪・原付を除く)の死者数は3,711人であるが、年齢層別では65歳以上の高齢者の死者数は746人で全死者数の20.1%を占めている。中でも、運転中の死者数は2,822であり、そのうち高齢者は526人(18.6%)となっている。自動車乗車中の高齢死者数は平成3年と比較して1.8倍、また運転中死者数は2.1倍に増加し、全年齢に占める高齢者層の構成率は、平成3年の7.5%が18.6%と約2.5倍増加している。
また、負傷者数は733,866人で、うち高齢者は50,310人(6.9%)である。また、自動車運転中は527,903人で、65歳以上は28,952人(5.5%)となっている。高齢者の負傷者数は平成3年と比較して3.2倍、また運転中の負傷者数は3.7倍に増加し、全年齢に占める高齢者層の構成率は、平成3年の2.4%が5.5%と約2.3倍増加している。

 イ 自動車が第一当事者となる事故
 ア) 死亡事故の特徴
 自動車運転者が第一当事者となる交通事故の件数は6,636件であり、これを年齢層別にみると高齢者は813件(12.3%)になっており、人口の高齢化に伴い高齢者の割合が高まっている。また、年齢層別の運転免許保有者数では50〜54歳が890万人で年齢層人口に占める割合が80.9%となっている。今後10〜15年後にはこの年齢層運転免許保有者が65歳に仲間入りすることから、高齢者の運転者数が著しく増加することになるものと予想される。

 イ) 死亡事故における法令違反等
 死亡事故では、高齢者にかかる813件中、漫然運転129件(15.9%)、運転操作不適110件(13.5%)、一時不停止81件(10.0%)等となっている。

 ウ) 全事故における特徴
 全事故では、高齢者の自動車乗用中の事故70,383件中、安全不確認20,976件(29.8%)、脇見運転9,392件(13.3%)等となっている。

 ウ 第二当事者の特徴
 自動車運転者が第二当事者となる死亡事故件数は3,621件であり、うち315件(8.7%)が高齢者である。これを法令違反別にみると、交差点安全進行義務違反が69件(21.9%)、安全不確認31件(9.8%)となっている。
 
(5)原付事故の特徴
 ア 原付乗車中の事故における死傷者の状況

 原付乗車中の死者数は753人であるが、年齢層別で見ると、65歳以上の高齢者の死者は284人で、原付乗車中死者数の37.7%を占めている。これは平成3年と比較すると全年齢で減少している中で高齢者層が増加(10.5ポイント)している。
 また、負傷者数は118,762人であり、うち高齢者は13,334人(11.2%)となっている。また、高齢死傷者数の中では、11.7%を占めている。

 イ 原付運転者が第一当事者となる事故
 ア) 特徴
 原付が第一当事者となる死亡事故件数は536件で、うち高齢者は181件(33.8%)である。また、原付が第一当事者となる全事故件数は44,063件で、うち高齢者は5789件(13.1%)となっている。

 イ) 法令違反等
 死亡事故では、高齢者の事故181件中、一時不停止65件(35.9%)、運転操作不適28件(15.5%)、優先通行妨害18件(9.9%)、信号無視13件(7.2%)である。
 また、全事故では、高齢者の事故5,789件中、運転操作不適1,208件(20.9%)、安全不確認1,206件(20.8%)、一時不停止634件(11.0%)である。
運転操作不適は運転の操作方法が適切に行われていることであり、ハンドルの切り過ぎ・不足、ふらつき、ブレーキの踏み方が十分ではない場合などである。


表  高齢者が第一当事者となった死亡事故の法令違反状況


歩  行  者 自  転  車 原   付 二  輪  車 自  動  車

構成率
構成

構成率
構成率
構成率
1 信号無視 55.2 一時不
停止
27.0 一時不停
35.9 一時不
停止
23.9 漫然運
15.9
2 走行車両の直
前直後横断
18.0 信号無
20.9 運転操作
不適
15.5 運転操
作不適
19.6 運転操
作不適
13.5
3 横断禁止場所
横断
9.9 優先通
行妨害
12.8 優先通行
妨害
9.9 漫然運
8.7 一時不
停止
10.0
4 踏切不注意 5.2 ハンドル
操作不
12.2 信号無視 7.2 安全不
確認
8.7 脇見運
9.7




表  高齢者が第一当事者となった全事故の法令違反状況
歩  行  者 自  転  車 原   付 二  輪  車 自  動  車

構成率
構成

構成率
構成率
構成率
1 信号無視 33.7 安全不
確認
25.2 運転操作
不適
20.9 運転操
作不適
22.3 安全不
確認
29.8
2 走行車両の直
前直後横断
16.8 一時不
停止
19.3 安全不確
20.8 安全不
確認
18.4 脇見運
13.3
3 横断禁止場所
横断
13.1 ハンドル
操作不
15.3 一時不停
11.0 一時不
停止
9.7 動静不
注視
8.8
4 横断歩道外横
11.8 信号無
11.4 脇見運転 7.6 脇見運
7.5 一時不
停止
7.0
5 駐車車両の直
前直後横断
7.5 交差点
進行義
務違反
4.4 漫然運転 5.8 漫然運
6.7 運転操
作不適
6.5







3 高齢者による事故例
 高齢者の特徴的な事故例を以下紹介する。
(1) 歩行者事故
【概要】高齢歩行者甲(75歳・女)は押しボタン式信号機の設置された横断歩道を横断する際、横断歩道の手間で、車道側が「赤」、歩行者用信号が「青の点滅」を確認したが、自分が横断するまで大丈夫だろうと、横断歩道直前で信号及び左右の安全確認を怠って横断を開始したため、折から左方より進行してきた普通乗用車乙と衝突したもの。
【事故原因】高齢歩行者甲の信号無視

(2)  自転車事故
【概要】見通しの悪い一時停止規制の設けられた交差点を、自転車で直進しようとした高齢者甲(70歳・男)が、交通量が少ないとこであることに気を許し、一時停止及び左右の安全確認を怠って進行したため、折から交差道路を左方から走行してきた普通乗用車乙と衝突したもの。
【事故原因】自転車甲の一時不停止、乗用車乙の徐行不履行

(3) 自動車事故
【概要】左右の見通しが悪く、一時停止規制の設けられた交差点において、高齢者甲(69歳・男)は通り慣れた道路で平素から交通量が閑散であることを承知していたため、事故当日も交差道路を走行してくる車両はないものと勝手に判断し、わずかに減速しただけで、一時停止及び左右の安全確認を怠り進行したため、左方道路から進行してきた乙(65歳・男)運転の乗用車と衝突したたもの。
【事故原因】甲の一時不停止、乙の徐行不履行

4 まとめ
 今後も、高齢者の人口構成率の増加、高齢運転免許保有者数の増加に伴い、高齢運転者が第一当事者となる事故の増加や高齢者の歩行中、自転車乗用中の事故の増加が予想されるところであり、高齢者の事故防止対策は、高齢者対策の中で重要な位置づけになってきている。
前述のように高齢者の交通事故は、高齢者自身の交通安全や自己の身体機能等に対する意識と現実の行動とのずれが交通事故発生の誘因になっていることがある。高齢者自らがその特徴を認識し、かつ基本的な交通ルールを遵守しつつ行動できるよう、また高齢者以外の者も高齢者の特徴を理解し、高齢者を発見したときの不側の行動等を予想しながら運転することが肝要である。
 高齢者の周囲の者、家族等もそのことを十分に認識し、新聞や近所で発生した事故について、また安全対策について高齢者と話し合う機会を設け、交通安全に対する意識付けを行っていく、また、高齢者もハンドルを握る以上、万が一の交通事故の場合には、刑事、民事、行政上の責任が発生することから、万が一のために、しっかりと自動車保険等に加入しておくことが望まれるところである。


                                                     *(財)交通安全教育普及協会の機関誌「交通安全教育」から


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