高齢者の交通事故防止


1 高齢者人口と交通事故の関係

65歳以上の高齢者の人口は、総務省統計資料によると、平成22年10月1日現在、約2,925万人であり、総人口約1億2,806万人に占める高齢化率は22.8%となっている。このうち、65〜74歳の人口は1,517万人、75歳以上の人口は1,407万人となっている。
 高齢者の人口推移と交通事故による死傷者数等の推移は図1のとおりであり、高齢者の自動車運転中の負傷者数は高齢者の人口増加率に比較して大きく増加傾向にある。


2 運転免許保有者数との関係

平成23年末現在の運転免許の保有者数は、8,122万人で、うち、65歳以上の運転免許を保有者数は1,319万人であり、平成18年末に初めて1,000万人を超えて以来年々増加している。高齢者の運転免許保有者数は10年前の平成13年末(約765万人)と比較して約1.7倍に増加している。また運転免許保有者数に占める高齢者の割合をみると平成23年末(15.7%)は平成13年末(10.1%)の約1.6倍になっている。

年齢層別の運転免許保有者数と人口を比較(いずれも22年中)してみると、65歳以上の人口に占める割合は43.8%(平成13年は33.4%)と増加している。
 各年齢層別にみてみると図2のような状況にあり、55〜59歳の運転免許保有者数727万人は年齢層人口の83.8%を占めており、今後10年後にはこの年齢層の運転免許保有者が65歳に仲間入りすることから、高齢者の運転者数が更に増加することになるものと予想される。


3 平成23年中の高齢者事故の発生状況

 65歳以上の高齢者に係る交通事故は、
    死者数    2,262人(前年比188人減、7.7%減、構成率49.1%)
    負傷者数 114,362人(対前年比7,623人減、6.7%減、構成率13.4%)
であり、特に高齢者の死者数は年齢層別で平成5年に若者の死者数を上回り最多の年齢層になったが、その後平成7年をピークに横ばいで推移し、平成14年以降年々減少している。
 また、死者数に占める高齢者の構成率をみると平成23年は49.1%と平成13年の36.9%を大きく上回っている。
 さらに高齢者の人口構成率22.2%と比較して死者数に占める高齢者の割合が二倍高くなっている。
 以下、高齢者が関わる交通事故の特徴を記載する。

(1)死亡事故

ア 死亡者の状況

○ 死者数を年齢層別にみると、高齢者(構成率49.1%)が最も多く、次いで50歳代(同10.5%)、若者(16〜24歳)(同9.5%)の順に多い。
 前年と比較すると、65〜74歳(前年比107人減、11.8%減)であり、次いで30〜39歳(前年比33人減、8.7%減)、若者(16歳〜24歳:前年比32人減、6.8%減)となっており、特に65歳以上の高齢者が188人減と人数的には減少幅が顕著です。一方、40歳代、60〜64歳が増加している。

○ 過去10年間の推移をみると、若者(平成13年の0.31倍)及び25〜29歳(同0.31倍)などが約3分の一以下に減少しているが、高齢者(同0.70倍)は、他の年齢層の減少率より少ないことから、全体に占める高齢者の割合は年々増加し、平成15年に初めて4割を超え、平成23年には人口構成率(22.8%)の二倍を超え、他の年齢層と比べても高い水準にある。

 人口10万人当たり死者数を年齢層別にみると、高齢者(7.73人)が最も多く、次いで若者(3.88人)、 60〜64歳(3.77人)の順に多い。
 過去10年間の推移をみると、全年齢層で減少傾向にあり、中でも若者が最も減少(平成13年の0.40倍)しており、高齢者も平成13年の0.53倍と6割以下にまで減少している。

○ 高齢者の死者数を状態別にみると、歩行中が半数近く(構成率49.6%)を占め、次いで自動車乗車中(同24.8%)、自転車乗用中(同16.6%)の順となっている。
 前年と比較すると、歩行中(前年比107人減、8.7%減)は100人を超える顕著な減少となった。
 高齢者の歩行中の死者数は、昭和50年代前半から増加傾向を示した後、平成7年(1,658人)をピークに漸減傾向にあり、平成13年の0.74倍となっている。

○ 自転車乗用中及び歩行中の死者の構成率を年齢層別にみると、高齢者はいずれも約3分の2(自転車乗用中:59.8%、歩行中:66.5%)を占めている。
 自転車乗用中(第1・2当事者)の死者数を法令違反別にみると、高齢者は、本人側にも違反のある割合が8割近く(構成率78.0%)を占め、高齢者以外の者(同69.2%)と比べて高くなっている。
 また、歩行中(第1・2当事者)の死者数を法令違反別にみると、高齢者は、高齢者以外の者と比べて、横断歩道外横断(同13.7%)、走行車両の直前・直後横断(同16.6%)等の道路横断時の違反の割合(高齢者:同37.2%、高齢者以外:同28.7%)が他に比べ高くなっている。

○ 高齢者を65〜74歳及び75歳以上の年齢層ごとに状態別でみると、いずれの年齢層も歩行中が最も多いが、特に75歳以上は過半数(構成率53.8%)を占めている。
 過去10年間の推移をみると、65〜74歳の自動二輪車乗車中の減少(平成13年の0.34倍)が大幅に減少している。一方75歳以上の自動車乗車中は高い水準(同1.19倍)にある。

○ 自動車乗車中の死者数を年齢層別にみると、全年齢では前年と比較して大きく減少(前年比160人減、10.0%減)した。
 年齢層では、高齢者が4割近く(構成率38.9%)を占め最も多い。高齢者の死者数は、運転免許保有者数の増加に伴って、昭和50年代前半から増加傾向を示し、平成13年(746人)をピークにその後は漸減傾向で推移しているが、他の年齢層の減少率が著しいことから、15年には若者を上回り自動車乗車中死者の最多の年齢層となっている。

○ 死者数を昼夜別・年齢層別にみると、昼夜間いずれも高齢者が最も多く(昼:構成率55.8%、夜:同42.6%)昼間は過半数となっている。

○ 死者数を昼夜別・年齢層別・状態別にみると、高齢者の昼間は、自動車乗車中が3分の1以上(構成率36.2%)を占め最も多いのに対して、夜間では歩行中が約4分の3(同72.8%)を占めている。

イ 原付以上の車両の運転者が第一当事者となる事故

○ 原付以上運転者(第1当事者)による死亡事故件数を年齢層別にみると、高齢者(構成率21.1%)が最も多く、次いで30歳代(同16.7%)、40歳代(同16.5%)の順に多い。前年と比較すると、高齢者は減少(同60件減、6.5%減)となった。
 高齢運転者による死亡事故は、運転免許保有者数が10年間で約1.7倍に増加していることなどを背景に、依然高い水準(同0.83倍)にあり、20年は30歳代を上回り、最多の年齢層となった。中でも75歳以上は、より高い水準(同1.17倍)にある。 

○ 原付以上運転者(第1当事者)による免許保有者10万人当たりの死亡事故件数を年齢層別にみると、若者(9.51件)が最も多く、次いで高齢者(6.58件)、25〜29歳(5.67件)の順に多い。

○ 原付以上運転中の高齢者(第1当事者)による死亡事故件数を法令違反別にみると、漫然運転(同18.3%)が最も多く、次いで運転操作不適(構成率14.9%)、脇見運転(同11.6%)の順に多い。
 高齢運転者の主な法令違反の構成率を高齢者以外の運転者と比較すると、高齢者以外の運転者では、最高速度違反による死亡事故が6.7%であるのに対して、高齢運転者では1.2%と低く、逆に、一時不停止が3.5倍以上、優先通行妨害が約2.2倍、高齢運転者の方が特に高くなっている。

○ 原付以上運転者(第1当事者)の死亡事故件数を事故類型別・年齢層別にみると、高齢者の車両相互(421件、構成率10.2%)が最も多く、次いで30歳代の人対車両(293件、同7.1%)の順に多い。

(2)全事故

ア 死傷者の状況

○ 死傷者数を年齢層別・被害程度別にみると、高齢者(65歳以上)の構成率は、軽傷者では12.3%であるのに対して、重傷者では31.2%、死者では半数近い49.1%となっており、被害程度が深刻になるほど高齢者の構成率が高くなっている。

○ 人口10万人当たりの死者及び負傷者数を年齢層別に比較すると、負傷者は15歳以下の子どもを除いて、年齢が高くなるにつれ少なくなる傾向にあるのに対して、死者は30歳代が最も少なく、高い年齢層ほど高くなっている。
 また、致死率(死傷者に占める死者の割合)、重傷者率(負傷者に占める重傷者の割合)及び死亡重傷率(死傷者に占める死亡・重傷者の割合)を年齢層別にみると、高齢者は全体と比べて、致死率は3.6倍、重傷者率は2.3倍、死亡重傷率は2.4倍となっており、他の年齢層に比べて事故に遭った場合の被害程度が深刻になっている。

○ 自転車乗用中の死傷者数を年齢層別にみると、負傷者では、若者(構成率22.1%)が最も多く、次いで子ども(同18.3%)、高齢者(同17.2%)の順に多いのに対して、死者では、高齢者が約3分の2(同59.8%)を占める。
 死傷者数について、過去10年間の推移をみると、各年齢層とも概ね平成16年をピークに減少傾向にあるが、40歳代(平成13年の1.03倍)、30歳代(同1.00倍)、高齢者(同0.90倍)は高い水準となっている。

○ 歩行中の死者及び負傷者数を年齢層別にみると、いずれも高齢者(死者:構成率66.5%、負傷者:同28.9%)が最も多く、死者では高齢者が7割近く(同66.5%)を占める。
 死傷者数の増減数について前年と比較すると、25〜29歳及び60〜64歳を除く全ての年齢層で減少しており、中でも子ども(前年比1,151人減、8.7%減)及び高齢者(同1,046人減、4.9%減)が大きくしている。
 また、過去10年間の推移でみると、子ども(平成13年の0.54倍)がもっとも減少し、高齢者(同0.91倍)は近年減少傾向にあるものの依然高い水準にある。

イ 原付以上の車両の運転者が第一当事者となる事故

○ 原付以上運転者(第1当事者)による交通事故件数を年齢層別にみると図3のとおりで、30歳代(構成率19.0%)が最も多く、次いで40歳代(同17.1%)、高齢者(同15.8%)の順に多くなっている。 


増減数を前年と比較すると、60〜64歳を除いた全ての年齢層で減少している。しかし高齢運転者による交通事故は、運転免許保有者数が10年間で1.72倍に増加したことを背景に、平成13年の1.33倍となり、75歳以上に至っては同2.00倍(免許保有者数は同2.43倍)となっている。

○ 原付以上運転者(第1当事者)による運転免許保有者10万人当たり交通事故件数を年齢層別にみると、若者(1,555.5件)が最も多く、次いで25〜29歳(992.2件)、高齢者(784.2件)の順となっている。
 また、高齢運転者は、交通事故全体では30歳以上の他の運転者と大きな差はないものの、死亡事故では若者に次いで多い。
 過去10年間の推移を見ると、全年齢層では減少傾向(平成13年の0.68倍)にあるものの、高齢者は高い水準(同0.77倍)と漸減傾向にある。

○ 高齢者の原付以上運転者(第1当事者)による交通事故件数の構成率を法令違反別にみると、高齢者の安全不確認(構成率31.4%)の割合が最も多く、次いで脇見運転(同16.5%)、動静不注視(同11.0%)の淳となっており安全運転義務違反が全体の約四分の三(同75.3%)を占めている。
 また、全体と構成率の差をみると、高齢者の安全不確認(同3.2ポイント増)及び一時不停止(同1.9ポイント増)が高い。一方、高齢者の脇見運転(同5.0ポイント減)及び動静不注視(同2.8ポイント減)の順で低くなっている。